2011-02-05

アガサ・クリスティー「チムニーズ館の秘密」


初期のクリスティ作品でも、その冒険ものを読んでいると、若々しく、日常に倦み、自ら波乱を待ち望んでいるキャラクターが登場します。金はないが元気とバイタリティには事欠かないこれらの人物はなるほど深みがなく、典型にしか過ぎないかもしれませんが、映画のセットのような背景に置かれたとき、とても輝いて見えます。威勢が良く、陽性のユーモアたっぷりの台詞もまた、魅力的で。
そして、この『チムニーズ館の秘密』には外国の王子や財界の大物、上流階級の勇敢なヒロインに、変装の名人である大泥棒までが登場。殺人事件や政治的謀略を巡って英仏両国の警察を巻き込みながらも、コミカルなやりとりが横溢しており、古き時代の優雅でお気楽なハリウッド映画を思わせます。

さらに、軽快な語り口だけでなく、意表をつく展開も間断なく起こり、巻を措くあたわざる面白さ。無駄なくお話を進める素敵なご都合主義に対して、必然性やリアリティなどを要求するのは野暮なもの。ただただ乗せられて、華やかな舞台でおこる冒険活劇を楽しめばよいですね。

ミステリとしてはまあ、大したことないと言えますが、それでも終盤のミスリードにはミステリ読みほど「まさか」と思わされるのでは。意外な真相がきっちりつくられているので、読後感も良かったです

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