2011-09-17

アガサ・クリスティー「謎のクィン氏」


裕福な初老の男であるサタースウェイト氏が、半現実的な存在であるハーリ・クィンに導かれながら事件の真相に迫っていく、そんな短編が1ダース。それぞれの作品はこれまで読んできたクリスティの短編集『ポアロ登場』『おしどり探偵』に収められたものと比べると少し長めで、それゆえ読み応えのある物語になっています。

最初の方に並んでいるのはトリッキーな、普通のミステリに近い内容のもので、クィンが謎解きのイニシアティヴを取っているのだけれど、作品が進むにつれ、次第にサタースウェイト氏は自分から積極的に行動するようになっていき、リアルタイムで起こった事件を解決したり、あるいは未然に防ぐようになる。そうするとますます普通の探偵小説になりそうだが、クィンの実在の危うさが物語に奇妙な陰影を落とし続けていて、むしろ独特な味わいは強まっています。
後半になるとファンタジックな要素が雰囲気だけで無く、はっきりと現実に食い込みはじめ、奇談に近い感触の作品も。

個人的なベストは「死んだ道化役者」かな。ミステリとしても入り組んだ要素をもっているのだが、幻想的な味付けにより物語の膨らみが出て、濃密な印象を残す。その両者がレベル高く有機的に絡んでいるし、バランスも素晴らしい。

他人の人生の傍観者というサタースウェイトと、なんでもお見通しのワトソン役であるクィンという設定は、非常に現代的であると思う。また、二人の関係性が徐々に変化して、遂には・・・というのも連作としての必然を感じさせるもので良く出来ています。
クリスティ初期の作品中で、今読んでも通用すると言う点ではピカイチではないでしょうか。

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