2012-05-04

パトリック・クェンティン「迷走パズル」


アル中からの回復のため精神病院で療養中の演劇プロデューサー、ピータ・ダルースはある夜、殺人を警告する自分自身の声を聴いてしまい、恐慌をきたす。しかし、所長のレンツによればそれは幻聴でなく、患者たちの様態を悪化させようとしている何者かによるものだという。レンツの依頼ににより患者間の様子を探ることとなったダルースであったが、ついに実際の殺人が。

クェンティンの「パズルシリーズ」第一作であり、これまで我が国では「愚者パズル」や「癲狂院殺人事件」の名で呼ばれてきた長編ですが、新訳を得て初の書籍化です。

発表されたのは1936年、ポスト黄金期であって、作家たちはオーソドックスな謎解きをこれまでとは違った器に盛りつける、その工夫にそれぞれの個性を打ち出していた頃。
この作品では、サイコサスペンス風の導入からミステリとしての本題への繋ぎがスムーズで、うまいなと。文体はユーモアを交えながらもきびきびしていて、軽ハードボイルド風。展開も推理や尋問によるものではなく、更なる事件の予兆や、死者からの電話など、次々と起こる変事によって作られており、どんどんと読んでいけます。

終盤には関係者を一同に集めての謎解きがなされ、俄然本格ミステリらしくなってくるのだけれど、推理そのものは非常に堅実なもの(正直、読み慣れたひとならとっくに犯人の見当はついているでしょう)。むしろ、アイロニーに満ちた展開が見所であります。

長らく読めなかった作品でありますが、現在から見ればそこそこの出来かと。まあ、こうして出されたことだけで喜ばしいのかな。
次作『俳優パズル』も新訳が予定されているようなので、この機会にシリーズの全貌が明らかにされることを期待したいですね。

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