2013-03-31

法月綸太郎「ノックス・マシン」


法月綸太郎の新刊はミステリではなく、結構癖の強いSF中短編集です。

「ノックス・マシン」 ミステリの世界ではお馴染み「ノックスの十戒」をモチーフにしたホラ数学SFであり、タイムトラベルもの。
世界構築は意外なほどしっかりしており、理屈はデタラメっぽいんだけれど「No Chinaman 変換」という発想が面白い。あと、ロナルド・ノックスのキャラクターをうまく生かした落とし方も上手いですね。

「引き立て役倶楽部の陰謀」 クラシックな探偵小説における名だたるワトスン役たち――アーサー・ヘイステイングズ、アーチー・グッドウィン、ヴァン・ダイン、そして勿論ジョン・H・ワトスン博士――らが所属する〈引き立て役倶楽部〉は緊急会合を開いた。名探偵及びその助手役を必要としない問題作『テン・リトル・ニガーズ』を書いたアガサ・クリスティを抹殺するために。
こちらはフォー・ミステリ・ファン・オンリーな一編で、裏テーマはヴァン・ダインによる二十則でしょうか。虚実がないまぜになったこのメタフィクション、にやにやしながら愉しむのが吉。

「バベルの牢獄」 今回の中では一番短い作品。一応脱獄ものといえますが、非常に堅い手触りのSFで、普段ミステリしか読まないひとには好みが分かれるかも。
中心アイディアには、僕は筒井康隆の『驚愕の曠野』を思い出しましたが、若い人はこれ倉阪鬼一郎じゃん、と言うのだろうな。いや、こういう風に書くと二番煎じみたいだけれど、ちゃんとオリジナルな捻りがありますよ。

「論理蒸発――ノックス・マシン2」 高度に発達したネットワーク内部にテロリストが仕掛けた自走的壊滅プログラム、その鍵はエラリー・クイーンの『シャム双子の謎』にあった。
クイーン論そのものをSF的アイディアに転化した一編。よくこんな変なことを思いついたものだ。プロット自体もすっきりと決まった。

総じて、かっちりした縛りの無い条件で奇抜なアイディアを描く文章は、謎解き小説を書いているときよりも活き活きしているようであります。
ただ、モチーフはミステリから持ってきているけれど作品としては完全にSFというのは、どうも据わりが良く無いという感じもします。ファン向けというか、読者を選ぶ作品集かなあ。

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