2013-07-15

アガサ・クリスティー「黄色いアイリス」


1932~37年に発表された作品を収録したオムニバス短編集。内訳は全9編のうちエルキュール・ポアロもの5編、パーカー・パインものが2編、ミス・マープルものが1編と、残るひとつがノン・シリーズの幻想小説であります。


「レガッタ・デーの事件」 衆人監視下からの宝石消失を扱っていて、容疑をかけられた人物がパーカー・パインに相談に行く、というもの。ミステリのルーティンからするとオフビートな展開が楽しい。

「バクダッドの大櫃の謎」 とてもクラシックな道具立てのミステリ。巧妙なミスリードや隠れた状況の発見など、しっかりと作りこまれていると思う。

「あなたの庭はどんな庭?」 あまり捻りが感じられないフーダニット。読み所は何かにつけて几帳面なポアロのキャラクターを生かした手掛かりかな。

「ポリェンサ海岸の事件」 『パーカー・パイン登場』を読んでいると、このお話のパターンはある程度見えてしまうかもしれないが、それでも意外性の物語として楽しめる。

「黄色いアイリス」 謎めかした電話に釣られてポアロが出かけていったレストラン。5人の出席者のためのテーブルには、6人分の食事が用意されていた。不吉な予感が高まる中・・・。予期せぬ展開によってぐいぐいと読まされる。シンプルでシャープな謎解き、人間性が浮かび上がってくる結末も良い。個人的にはこれがベスト。

「ミス・マープルの思い出話」 ミス・マープルが息子のレイモンドたちに、自分の解決した事件について語る、というもの。トリッキーといえばそうなのだが、謎解きとしては事件の状況をあいまいに説明しておいて、後からその抜け穴を突くというもので、ちょっと甘い。

「仄暗い鏡の中に」 奇譚というのが相応しいような一編。幻想短編集『死の猟犬』収録作品と比べてもあっさりとした物語なのだけど、ちょっとした絵解きを入れてるのが、クリスティらしさか。

「船上の怪事件」 ストレートなフーダニットで、殺人事件で最大の容疑がかかる人物にはアリバイがあった、というもの。謎は魅力的なのだけれど、真相はいささか古臭い。

「二度目のゴング」 中編「死人の鏡」の元になったような短編。トリックは面白いのだが、解決の駆け足な感が強いか。


小味な短編集であって、気楽に読めるのが良いです。作品の出来にはばらつきがあるのですが、それがあまり気にならないのは、この時期にはしっかりとしたスタイルが確立されていたからでしょうか。長編ほどフォーマットの縛りが強くないので、その分バラエティに富んだ趣向が楽しめるかな。
しかし、裏表紙の内容紹介はちょっと間違っているな。

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