2009-09-21

アントニー・レジューン「ミスター・ディアボロ」

1960年作品。
黄金期の本格、特にディクスン・カーを意識したようなミステリであり、17世紀に起こったと伝えられる怪事件、それにまつわる人物が現代に甦って、衆人監視のもとでの消失や密室殺人を起す、という如何にもゾクゾクしそうな道具立てなのだが、カーのようなケレンが薄く、淡々と進行していくため怪奇味は希薄であり、これは勿体無い。
探偵キャラクターも魅力が弱く、実際に黄金期に書かれた作品ならまだしも'60年代でこれはちょっとなあ。

謎解きのほうはスマートかつシンプルな盲点を突くもので、すごく筋のいいものだけれど、あっさりと語られるため盛り上がりきらなくて、肩透かしな感じを受けてしまう。これも惜しい。
また、よく考えると犯人の行動・計画には相当無理があるのだが、そこは古典へのオマージュとして許せるかな。
ただ、誤導が弱く、これが結果としてサスペンスの欠如に繋がってしまっていると思う。
まとまりは良いんだけれどもねー。

アイディアは素晴らしいが、プレゼンテーションがいまいちなため小粒な印象をあたえてしまう作品だと。あくまでマニアが楽しむ作品あって、一般向けじゃないよね。

2009-09-13

ヘレン・マクロイ「幽霊の2/3」


長らく入手難であった『幽霊の2/3』がめでたく新訳で出ました。同じ作者の『殺す者と殺される者』もそのうち出るらしいので楽しみであります。

さて、内容ですが。出版社社長宅で行われたパーティで人気作家が毒殺されてしまう。 古典的な謎解きを期待していると毒殺トリックや誰がやったのか、を中心に話が進んでいきそうなところですが、話はそれとは違う謎の方をどんどん掘り進んでいき、まるで予想しない展開に引っ張られていってしまう。ここら辺、1956年発表の作品ということでポスト黄金期における本格ミステリの新たな語り方のひとつ、として読めそうです。

純粋に謎解きとしてみると、ロジックは緩いものであるし、トリックもそれほどではなく、そこだけ取り出すと大したことない、ということになるかも。
あと、解決前に「読者への挑戦」風に気にかかる点が列挙されていくのですが、それによってメインになっている謎がすっかり見えてしまう。そそる趣向ではあるし、フェアといえばそうなんだけれど、勿体無い。

ただ、きめ細かな伏線がすごく良く出来ていて、これによって捨て置けない作品になってるんだよなあ。隅々まで無駄なく構成されていたことが、あとから分かってくる。
そして、解決部分で作品タイトルの意味が浮かび上がってくるところは、美しいといっていい。僕などはそこだけでもう満足。

形がいいミステリなんだけれど、展開は地味であるし、広く勧められるかは微妙なところかなあ。

2009-09-12

ビートルズがやって来たハァハァハァ


うちにもビートルズが来たよ。

とりあえず「Please Please Me」だけ聴きました。
やはりモノラルが素晴らしいです。
どの楽器もゴツゴツしていて、重い。ヴォーカルも激しくて、品がない。
まさにロックンロール。
紙ジャケの出来はうん、悪くはないかな。質感とか、もっと出せたようにも思うんだけど、生産量やコスト的な問題でこれがいっぱいなのでしょう。
ステレオミックスは今更言ってもしかたないのだけれど、やっぱり演奏・ヴォーカルが鳴き分かれで、ホントに今後はこれがスタンダードになるのか? 珍品だと思うのですが。
まあ、そうはいっても音はいいですね、クリアで音圧もあって。特にベースがブンブンいってて迫力あります。
ワタクシ、出る前にはステレオ/モノは2イン1にしろよ、とか思ってましたが、実際聴いてみるとこれは別々でよかったのかな、という気がしました。リマスターのコンセプトがステレオとモノでは違うんだね、きっと。

とりあえず人生の楽しみの何パーセントかは達成されたようではありまする。しばらくは退屈のしようがない。
マーク・ルウィソーンの「レコーディング・セッション」を傍らに秋の夜長をアレします。

2009-09-03

Blossom Dearie sings Rootin' Songs


1963年発表。もともとは、アメリカのルート・ビア (Root beer) というソフトドリンクの販促用に配布されたアルバムであります。
ジャケットにはブロッサム・ディアリーが弾き語りをする姿が写真が使われているが、このアルバムで彼女はピアノを弾いておらず、唄だけ。そのせいかどうかは判らないけど、全体に唄のキーがいつもより低めであって、可憐さはやや控え目で落ち着いた感じ(ブロッサムにしては、ね)。

演奏はジャズカルテットが受け持っているのだけれど、レコードそのものはジャズファンに向けて制作されたものでないので、収録された曲も当時のアメリカでよく知られたものばかり。「酒とバラの日々」「想い出のサンフランシスコ」「暑い夏をぶっとばせ」「デサフィナード」「燃える初恋」「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」など。アルバムタイトルの「rootin'」は「routine」にかけているわけだ。
それでもアレンジは安易なものではなく、それぞれに一ひねり。「酒とバラの日々」のような曲でも、テンポ早めのボサノヴァ仕立てながら、ブレイク部分では拍子が変わってスリルを感じさせる仕上がり。

コンパクトにまとまったジャズボサに乗って、凛と立ったブロッサムのヴォーカルがスウィングするポピュラー好盤であります。