2010-01-24

Kenny Rankin / Mind-Dusters

ケニー・ランキン、1967年のファーストアルバム。シングル盤でのデビューはこれより10年前に果たしており、それからもポツポツとシングルをリリースしながら裏方などで活動してきて、満を持してのアルバムとなるわけだが、ベテランっぽい擦れた感じが全くない瑞々しさは格別であります。
代表曲 "Peaceful" が、やはり素晴らしい。

サウンド的にはギターによる弾き語りに、バックが付いているという感じのものが多く、曲によってはフォークロック的な意匠がやや時代を感じさせもする。個人的にはまったくOKでありますが。

この作品には、オリジナル曲とカバーが半々で収められている。ランキン独特の歌いまわしは優しいんだけれども強烈で、どの曲も自分のスタイルにしてしまっているように思う。ボブ・ディランの "Mr. Tambourine Man" がこんなにも柔らかに響くとは! ちょっとジャズ的でもあるかな。
低いキーの歌だと、ドノヴァンを思わせるところも。

とにかく一曲目、"Cotton Candy Sandman" を初めて聴いたときは衝撃だった。歌い出しを数秒聴いただけで、完全にやられてしまった。浮遊感を漂わせた、というより浮世離れしたような声。何これ?
曲自体は先にハーパーズ・ビザールのカバーで知っていたのだけれど、全然違う。曖昧な言い方だけど、ハーパーズのヴァージョンは僕にとって心でもって把握できるものだった。けれど、ケニー・ランキン自身のものには触れることすらできない、そんな感じを受けたのだ。アコギと美麗なオーケストレーションの組み合わせも抜群。
この曲はわずか2分足らずで終わり、メドレーのようにしてフレッド・ニールのカバー "The Dolphins" に続くのだけれど、そこでも音の海のなかを自在に泳ぐ歌声、という感じであります。最高。

2010-01-04

Procol Harum / Procol Harum (eponymous title)

昨年に英Salvoからリイシューされたプロコル・ハルムのファーストを聴いていたんだけれど、これ、音がイイ。今まで出ていた独レパートワー盤やそれを元にいじくった日本の紙ジャケCDは、音像がベタっとしていて、どの曲も同じように聴こえる(まあ、似たような曲調が多いんだ、確かに)。Salvo盤も勿論モノラルなんだけれど、分離が良く、ちゃんと奥行きが出ていて、印象を一新した感じ。古いCDを聴いて、こんなもんか、と物足りなかったひとには是非聴いていただきたい。アルバム自体の評価が上がるんじゃないかな。

このSalvo盤のボーナストラックにも当然「青い影 (A Whiter Shade Of Pale)」が収録されている。ブックレットを読むと、この曲についてプロデューサーのデニス・コーデル自身が当時のインタビューで、ゲイリー・ブルッカーのヴォーカルは「サイケデリックなパーシー・スレッジ」のように聴かせたかった、と言ってたらしい。してみると、元々「男が女を愛する時 (When A Man Loves A Woman)」との類似は意識されていたのだな。
「青い影」は我が国においては、「男が女を~」同様のロマンチックな曲だと思われているフシがあるのだが、実際には何だか気味の悪い歌詞が付いている。キース・リードの書く詩は難しすぎて、正確に意味が判ったためしはないのだが、それでも「青い影」の歌詞から受けるイメージは英国ゴシック小説の不気味さであって、普通のラヴソングであるとは思えないのだが。

ところで、従来のCDでは「青い影」の作者として、ゲイリー・ブルッカーとキース・リードの二人がクレジットされていたのだけれど、Salvo盤ではマシュー・フィッシャーの名前も入っている。数年越しの裁判の結果、昨年になってフィッシャーも作者としての権利がある、という判決が下りたのだな。フィッシャーによるイントロのオルガン(元はバッハだが)は曲を決定づけるものであって、印税もらってもいいかな、という気はするが、歌詞や唄メロを書いたわけではないので、自分の演奏パートをアレンジしただけだ、という見方もできる。この裁判が前例となってしまうと、ヘッドアレンジでも印象的なフレーズなら作曲となるわけで、何だかややこしいことではある。

Ian Dury / New Boots And Panties!!

「New Boots And Panties!!」(1977) は僕にとって、最初にドラムの格好良さを教えてくれたアルバムです。ファンクのフの字も知らない若い時分、パンクのレコードだと思って買ったら、いきなりの流麗な鍵盤のフレーズ、それに続く、沈み込むような、それでいて躍動するリズムになんだこりゃ? 違うLPが入ってたのか、と面食らったのであります。
アルバム全体、すごく無駄がないのにニュアンスが豊かで、特にチャーリー・チャールズの特別なことはしていないようなのに格好いいドラムに、これは何なんだろう、なんでこんなに気持ちいいんだ、と。このレコードと後、アル・グリーンですね、ドラムに注目して聴くようになったのは。叩き方は勿論、音色も素晴らしい。

にしても、初期のブロックヘッズはよろしいですね。ノーマン・ワット=ロイとチャーリー・チャールズという最強のリズム隊に、お洒落番長チャズ・ジャンケルの下世話一歩手前のアレンジ、その上で猥雑な日常を詩的に表現するイアン・デューリー。異種のセンスがちょっと無いようなバランスで成り立っていて、クールであり、また熱もはらんでいる。
「New Boots ~」の2枚組エディションにはデューリーとジャンケルが中心になって作成したデモテイクが多数収められている。それを聴くとアレンジはほぼ出来上がっているんだけれど、ところどころフュージョンっぽい瞬間があって、これがチャズ・ジャンケル本来の趣味なのかな、という気がします。

ところで、このアルバムの2枚組エディションは英DEMONから2種類出ています。先にリリースされたのが上に書いたデモ満載のやつで、これは日本盤も出ている。それとは別で、2007年に30周年記念盤としてCDとDVDがカップリングされたものもあるのだが、これはUK盤しかない。
DVDの内容は1977年12月にBBCで放送されたライヴであります。30分くらいのものではあるけど、極上のファンクから御機嫌なパブロック風味、そして激情を噴出させるパンクな面まで勢いに乗っている時期のブロックヘッズが確認できます。
ファンなら是非入手、と言いたいところなんですが、これUK盤なのでDVDはPAL形式なんですよね。再生環境があって、その上ダブリ覚悟でもいいファンなら是非。