2013-02-11

アガサ・クリスティー「ナイルに死す」


1937年のエルキュール・ポアロもの長編で、ナイル川を巡航する観光船をクローズド・サークルに仕立てた作品です。
クリスティの書いたミステリの中でも最も長いものだそうですが、そんなことは全く問題にならないくらい筋運びは滑らか、ただ登場人物が多いだけです。腹に一物ありそうな面々が実に手際よく紹介され、いかにもこれは伏線なんだろうなあ、というエピソードを盛り込みながらサスペンスが高まっていく。で、すっかり乗せられて気持ちよく読んでいると、不意打ちのようなタイミングで事件が起こる、この呼吸が鮮やか。

殺人の他に、高価な宝石の盗難、果ては政治犯までが絡んできて、ミステリとしての奥行きは充分であります。
また、作品の途中から『ひらいたトランプ』にも顔を出していたレイス大佐が登場、ワトソン役を務めるのだが、ヘイスティングズと比べて明敏であり、そのことによって今まで以上に踏み込んだディスカッションが可能となっているよう。

実を言うと、フーダニットとしては弱いのです。トリックには驚くようなものが使われていますが、相当に無理目。それを細かい伏線の数々によって押し切ってしまった感はあります。
ただ、メインの謎だけではなく脇筋もしっかり作りこまれており、一見錯綜していた構図が綺麗に収束していく手際はお見事としか。

物語る力が半端ないのに、そこには一切の強引さを感じさせない筆運びが素晴らしい。華やかで堂々たるエンターテイメント小説という印象を持ちました。

0 件のコメント:

コメントを投稿