2013-08-18

クリストファー・プリースト「夢幻諸島から」


地球に似た文化・環境を持つ世界の赤道付近に広がる島々、夢幻諸島。本書は30以上の章からなる、その島々のガイドブックという体裁をとっています。序文は夢幻諸島内に住む作家の手で書かれているのだけれど、それによればガイドを編纂した人々の正体は明らかではないらしい。どうも、この本全体に企みがあるようだ。

本編に入ると、最初は本当の観光ガイドのような客観的な記述が続き、ちょっと乗りにくいですが、すさまじい猛毒を持つ凶虫・スライムのエピソードから俄然面白くなってくる。更に、もう少し進んでいくと作品の構造が何となく見えてきた。これは、連作短編集の形をとっていますが、本質的には長編ですな。

島のガイドブックなのに、殺人事件の調査報告書としか見えない章や、複数の書簡が並べられただけの章、独立したSF短編として楽しめるものもある。そして、読み続けて行くにつれて、それぞれのエピソードの連関が次々に浮かび上がっていく、この楽しさが絶品。何てことはない島の紹介だけの章も、後から伏線のように効いてきて、読めば読むほど世界の膨らみが増していくような感覚がたまらない。
そこから見えてくるのはエキゾティックな世界を背景にした奇妙な運命の数々で。隠遁生活を守る作家にパントマイム・パフォーマー、世界的な社会学者や放浪する芸術家たち。

お馴染みの現実認識に関わる仕掛けもあるのですが、それにこだわらなくでも充分に楽しめると思います。プリーストの作品としては、かなり取っ付き易いのでは。
いい本を読みました。

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