2014-12-31

The Kinks / The Anthology 1964-1971


キンクスのパイ・レコード在籍時のアンソロジー、予定より一月以上遅れて入手しました。
英国で最初に出回ったものにはマスタリングのミスで、ディスク3収録の "Two SIsters" 別ミックスに音飛びがあったそうなのだけど。チェックしてみたら、さすがにもう修正されていて、まずはひと安心。

パイ時代のアルバムに関してはここ数年のうちに、2タイトルを除いてデラックス・エディションとして出し直されている。しかし、今回のセットはさらなる新規リマスターで、音の感じはそう大きくは変わらないものの、やや高音が強めに仕上がっているように思う。


5枚組、140トラックのうち未発表とされているのが25曲(ディスク5にはひとつも入っていない)。聴いてみた感じ、別ミックスのうちいくつかは今回新規にマルチトラックから作られたもののようだ。
ただライナーノーツを読むと、当時のセッションテープは1970年代になってパイ・レコードによって廃棄されてしまっていて、そんなには残っていないらしい。
レアトラックを目当てにしていたら、ちょっと量的に物足りないかもしれない。けれど、この時期のキンクスの充実ぶりを一気に追体験していると、そんなことはあまり気にならなくなってしまう。

何人かのミュージシャンたちのコメントが記されているけれど、ピート・タウンゼンドが一番長い。
「Village Green Preservation Society」が俺の無人島レコードだ、なんて言ってます。

しかし、デビュー当時はすごく若々しいね。特にディスク1の頭10曲、ゆったりした曲調のものがひとつもなく、チンピラ臭いロックンロールが一気に畳み掛けてくる。ディスク2の半ばまで、長さが3分を越える曲がない、というのもまた気持ちがいい。
そして、ディスク4あたりを聴いていると、やっぱり「Village Green Preservation Society」も単体でリマスター盤を出して欲しくなるな。今回のセットでは「Something Else」収録曲はステレオミックスが採用されているのに、何故か次にリリースされた「Village Green~」からの曲はモノラルが殆どだ。はて?

2014-12-30

エラリイ・クイーン「災厄の町〔新訳版〕」


クイーン氏はまた深く息をついた。「だが、そんなことはだれにもわかるまい? これは実に奇妙な事件だったよ――人間関係も感情も出来事もひどくこみ入っていて、ぼくが出くわしたことのないものばかりだった」

さて、新訳版です。
えらく厚くなったような。字が大きいわけでもないのに500ページくらいある。
帯には「エラリイ・クイーンの最高傑作!」とあります。そうなのでしょう、きっと。

この『災厄の町』は今まで何度か読み返してきました。クイーンにとって大きなターニング・ポイントとなる作品であり、実際に面白いのですが、最初に読んだときには、ミステリとしては大したことないんじゃないか、と思いました。
エラリーを渦中に取り込むことで、事件を外側から見ることができなくさせてしまう、それによってこの作品は成立しているのだけれど。読者からすれば真相は簡単に見当が付く。そして、さすがにこのままでは終わらないだろう、と思って最後まで読み続けると、なんと、本当にそのまま終わってしまう。
ある程度の複雑さを犠牲にしたことで、小説としての力強さが生まれているのだとは思いますが。若いひとが「よし、犯人を当ててやろう」と意気込んで読んだとしたら、がっかりするんじゃないかな。

全体の構成はとても優れているのです。犯人の設定は過去に使ったものの再使用なものの、物語の上ではずっと大きな効果を挙げている。また、投函されていない手紙、というアイディアの独創性は見事というしかない。
一方で、クリスティ風のダブルミーニングも使われていますが、これはちょっと硬いかな。

既にエラリー・クイーンのファンになっている人間にとっては、とても読み応えのある作品ではあります。
なお、早川からは夏に『九尾の猫』の新訳が出るそうです。先に『十日間の不思議』を読んどいたほうがいいんだけどな。

2014-12-29

Billy Butler & Infinity / Hung Up On You


ジェリー・バトラーの弟であるビリー、1973年に彼がグループを率いてMGM傘下のPrideというレーベルから出したアルバムが初CD化されました。ボーナストラックも3曲追加。
あまり聞いたことのないFever Dreamというところからのリイシューでして。ブックレットはペラ紙一枚で、作曲者はおろか、音源の権利クレジットすら記載されていません。肝心のマスタリングはというと、音圧がちょっと高すぎるものの、ちゃんとしたクリアな音ではあります。

さて、アルバムの方ですが。冒頭からスロウ2連発、これですっかりやられてしまう。
"I'm So Hung Up On You" は唯一ファルセットでリードを取る曲。落ち着いた歌い出しから一転、サビでの盛り上がりが素晴らしい正調スウィート・ソウルだ。それだけにあっさりとフェイドアウトしてしまうのが物足りなく、繰り返して聴きたくなる。
続いての "I Don't Want To Lose You" は陰影を湛えたメロディが、ややハスキーで優しげなテナーで歌われる。いかにもシカゴらしい乾いたドラムの音も甘いサウンドを引き締めているようで、好みです。

このアタマ2曲のスロウが抜きん出て良いのですが、残りはミディアムテンポのものが多め。全体に曲の粒が揃っていて、快調なシカゴ・ソウルが楽しめます。特に "Whatever's Fair" というミディアムが、抑制を効かせた中で泣きの入ったメロディが印象的で、気に入りました。収録曲のうち、この "Whatever's Fair" と先に挙げた "I Don't Want To Lose You" を含めた4曲をジェリー・バトラーも取り上げているのだけれど、こちらビリー版のほうが全体にテンポが早めで若々しいつくりになっています。
なお、アレンジャーを務めているジェリー・ロングはモータウンのスタッフだったひとのよう。"Storm" というミディアムはフォー・トップスを思わせるところがあるし、ファンクの "Free Yourself" なんてちょっとテンプス風です。

ボーナストラックはアルバム以前、'69、'70年のシングル曲。アルバム収録曲よりすっきりとしたサウンドで、中では張りのあるテナーが映える "Keep It To Yourself" の爽やかな仕上がりがいいな。

バックコーラスには女声が目立つ曲もあって、果たしてボーカルグループとしての実態はどのくらいあったのでしょうか。まあ、そんなことはどうでもいいくらい充実した内容の一枚でありますよ。

2014-12-28

アガサ・クリスティー「バグダッドの秘密」


1951年発表になるノンシリーズ長編。中東、イラクの首都を舞台にした冒険スリラーです。
クリスティのスリラー作品ではお馴染み、若くて元気のいいお嬢さん、この作品ではヴィクトリアが国際的な謀略に巻き込まれていく、というお話。

軽薄さが仇をなして失業中のヴィクトリアは一目ぼれした相手の青年、エドワードを追ってバクダッドへ行きたいのですが先立つものがない。なんとかお金を使わずに行く方法がないかと知恵を絞ります。それと平行して命を狙われている人物や、ロンドンで活動するスパイなどがカットバック風に描かれていき、全体図をなかなか見せない。このあたりの期待感はなかなか。
作品の原題が "They Came to Baghdad" とあるのだけれど、中心になる登場人物たちがバグダッドに集まっていくことで、ばらばらに語られてきた要素が次第に結びついていきます。
物語の中盤に至って、ヴィクトリアがエドワードとようやく再会してからはクリスティ自身のトミーとタペンスものを思わせるところもあるのだが。

プロットがご都合主義全開なのは女史のスリラーではいつものこと。ただ、謎解きの面からしてもやや難ありかな。誰が悪事の首謀者であるかは割合に早い段階に見当が付く。その上での驚きも用意されてはいますが、ちょっと枝葉感が。

構えずに気楽に読むのが吉。要所要所のヒキは強い、ドキドキハラハラ編でございました。

2014-12-25

The Velvet Underground & Nico / The Velvet Underground & Nico (eponymous title)


ヴェルヴェッツというとモノクロームなイメージがあるんだけど、1967年にリリースされたこのデビュー盤はカラフル。なんといっても "All Tomorrow's Parties" がサイケデリック満艦飾で、しかも熱をはらんだ演奏が絶品。これと "Venus In Furs" ではオストリッチ・ギターとやらのドローン効果もあるのでしょうが、こういう作りこんだ曲があるからこそ、ほかは割りと好き勝手やれているのだと思います。
もちろん "I'm Waiting for the Man" はめちゃくちゃ格好いい。古典的ともいえる構成でありながら、これ以前になかったタイプの新しいロックンロール。


インプロヴの要素が強い曲には退屈に思える面もある。けれど "Heroin" になるとそれが曲の中でエネルギーの高まりを感じさせて、すごく効果を上げている。まさにジョン・ケイルの才気が爆発、といった感じであります。
また、"Sunday Morning" におけるベースギターの嵌ってなさ加減はちょっとしたものだ。しかし、曲全体のサウンド処理がわけのわからないことになっているので、聞き流してしまうのね。

あと、"There She Goes Again" のリフは勿論 "Hitchhike" なんだけど、それ以上にボーカルがボブ・ディラン。"Run Run Run" や "The Black Angel's Death Song" にもそういう面はあるけれど、"There She Goes Again" は本当にディラン丸かじりなのが面白いな。

つたない部分もあるのだけれど、長年聴いていると、もう、そこはどうでもよくなってきた。とてつもない個性のきらめきを感じさせてくれる、やっぱり唯一無二のアルバムですな。

2014-12-07

Procol Harum / Shine On Brightly


マシュー・フィッシャー在籍時のプロコル・ハルムはどれもいいんだけれど。曲だと "Homburg" が一番好きで、アルバム単位でいくとセカンド「Shine On Brightly」(1968年)かな。

冒頭の "Quite Rightly So" からして太いメロディで、堂々とした風格を感じさせます。演奏の主役はオルガンとドラムなんだけれど、ちょっとしたピアノのフレーズも効いている。
そして、続くタイトルトラック "Shine On Brightly" がとてもいい。イントロのフレーズは単純極まりない、けれどある種のエネルギーを放射しているような鮮やかさ。米盤ジャケットデザインを思わせるイマジネイティヴなサウンドで、メロディもキャッチーだし、これが個人的にはベスト。
このアタマ二曲が抜きん出ていいのだけれど、他のものも渋めの佳曲が揃っている。サイケデリックの要素がサウンドにカラフルさを付け加えていて、それといかにも英国らしいメランコリックな味わいが組み合わさることで、独特の浮遊感が生まれているように思うな。

そして、アルバム後半には組曲 "In Held 'Twas In I" があって。単体ではいまひとつものにならない曲をまとめた、という面はありますし、個人的にも大げさなアレンジは苦手です。にもかかわらず、それが聴けるものとして構成されているのはグリン・ジョンズの貢献もありますが、メンバーそれぞれのプレイヤーとしての力量によるところが大きいかと。特にB・J・ウィルソンというドラマー、そのプレイはパワフルでありながら繊細。曲調に合わせさまざまな表情を見せてくれます。
小パートとしても "'Twas Teatime at the Circus" からは、ちょっとスモール・フェイシズの「Ogden's Nut Gone Flake」に似たようなユーモアを感じます。また、マシュー・フィッシャーが唯一作曲し、ボーカルも取った "In the Autumn of My Madness" は組曲全体の重いサウンドの流れの中でうまく作用しているようだ。

R&Bとクラシック音楽、さらにはサイケデリックという要素が並列されるのではなく、有機的に絡み合っているというのは、ちょっとない個性ではないかしら。この時代にしか起き得なかった化学反応、なんてことを考えてしまいました。

2014-12-01

Bo Street Runners / Never Say Goodbye: The Complete Recordings 1964-1966


ロンドンのR&Bコンボ、ボー・ストリート・ランナーズのコンプリート盤が英RPMから出ました。ライナーノーツにはオフィシャルなものとしては初CD化だ、と書かれております。
コンプリート、といってもアルバムを残していないグループなので、そんなに分量はないのですが、今回は新たな発掘音源も2曲収録されていますよ。

最初に収められている4曲は1964年に自主制作されたEPから。演っているのはブルースのカバーなんだけど、唯一オリジナルの "Bo Street Runner" はボー・ディドリー調でこれが格好いい。スタイルとしては実にオーソドックスな英国R&Bなんですが、ライヴの勢いをそのまま持ち込んだであろう気合の入った演奏です。この時代にしてはカラフルな鍵盤も印象的。ボーカルは今聴くとちょっとロカビリーっぽいか。
彼らはTVショウ「Ready, Steady, Go!」のアマチュア・コンテストで勝ちあがり、デッカとのレコード契約を獲得すると、グリン・ジョンズの元でシングルを制作。"Bo Street Runner" をリズムを強調したアレンジで再録しています。流石にまとまりのいい仕上がりですが、個人的にはEPヴァージョンのほうが活きがいいように思うな。残念ながらこれが大して売れなかったため、デッカは契約をEMI傘下のコロンビアに売り渡してしまいます。


翌'65年になると、ミッキー・モストがプロデューサーに就いて次のシングルが制作されます。両面ともジェイムズ・ブラウンのカバーで、これ以前に比べて演奏が格段にシャープになっていますが、それ以上にボーカルがワイルドなものに変化。力強くてダンサブルな仕上がりです。実際のレコーディングではセッション・ミュージシャンが参加していて、バンドのメンバーたちは不満であったそうなのだが、何度聴いてみてもこの2曲が一番良いんだから仕方がない。
彼らはこの後に2枚のシングルを出していて、そこではキャッチーなメロディの曲を取り上げたり、ビートルズの "Drive My Car" を演ってみたりしています。悪くはないのですが、逆に個性が弱くなっているかなという気も。
また本盤には、バンド末期のシンガーであったマイク・パトゥが解散後に出したソロ・シングル曲もあって、(少なくともその片面で)バックを務めているのもボー・ストリート・ランナーズだそう。明るくポップなこれらはもう別物という感じなんだけれど、出来はいい。ちょっとジョージィ・フェイムっぽいところもあるかな。
そして、最後には「radio version」としてスタジオライヴらしき2曲が入っています。音質は良好、迫力も充分でこれには満足。

どう考えてもニッチな層に向けてのリイシューですが、デビュー当時のストーンズや、あるいはアートウッズのようなモッドR&Bなんて呼ばれているものが好きなひとにはいいんではないすかね。