2015-01-12

アガサ・クリスティー「マギンティ夫人は死んだ」


暇をもてあましていたポアロのもとを旧知のスペンス警視が訪れる。殺人事件の犯人を逮捕し、裁判で死刑判決が下るに至ったにもかかわらず、スペンスにはその人物が殺したとは思えなくなっていたのだ。かといって、他に有力な手がかりがあるわけではないという。ポアロは懊悩するスペンスの姿に心動かされ、事件を再調査し始める。


1952年に発表されたエルキュール・ポアロもの長編。
導入こそシリアスな調子ですが、それより後は穏やかなユーモアに包まれた作品です。
ポアロは事件のあった田舎町で単独、住民たち相手の聞き込みに廻るものの、高名な探偵を自負するポアロのことを皆、その名前も聞いたことがない様子。また、ポアロが滞在することとなるゲストハウスは散らかり放題かつ食事はお粗末というわけで、おおよそポアロの高級な趣味には合わないのですが、そこしか泊まれる場所がないので仕方がない。色々と失礼な目に遭いながら奮闘するポアロの姿が珍しくも楽しい。
更に、物語の三分の一くらいのところで『ひらいたトランプ』にも出ていた女流探偵作家のオリヴァ夫人が登場します。彼女は自作に登場する外国人の探偵についてひとしきり愚痴ったりして、作者クリスティ自身のポアロに対する気持ちが見えるよう。

ミステリとしてもよく出来ているのです。序盤において、些細な事実から事件のとっかかりを見つけるひらめきはいかにもこの作者らしい冴えが感じられます。また、捻りを持たせた解決編は読み応えがあり、真相の意外さや奥行きも充分。特に、第二の殺人の大胆さには感心するしかない。
その一方で、伏線に乏しい感はあるかな。ポアロが発見した決定的な手がかりが伏せられているのは厳しい。

展開は地味ですが、実はトリッキー。作品全体としても、いつものクリスティとは一味違ったテイストでありましたよ。

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