2015-07-26

Procol Harum / Procol Harum (eponymous title)


プロコル・ハルムの初期アルバムが英Esotericよりリイシューということで。
まず、ファースト「Procol Harum」が2CD、セカンド「Shine On Brightly」が3CDで出ました。


ファーストの「Procol Harum」は英国では1968年にリリース。米国ではその前年に、デビュー・ヒット "A Whiter Shade Of Pale" をオープナーに入れ、代わりに "Good Captain Clack" が落とされた仕様でリリースされました。先に出たから米盤がオリジナルだよ、というひともいるようです。

このアルバム、当初はオリジナル・ラインアップで'67年の五月から七月にかけてレコーディングされていたそうですが、うまくいかなかったようで。完成したものはギターがロビン・トロワー、ドラムがB.J.ウィルソンに交代してまもないうちに、二日ほどで制作されたのだそう。
すでにバンドの個性としては確立されているようでありますが、ライナーノーツでは "A Christmas Camel" におけるピアノのフレーズがボブ・ディランの "Ballad Of A Thin Man" から来ていることや、"Good Captain Clack" とザ・フーの "Tommy's Holiday Camp" の相似などを指摘していて、なるほどなあ、と。

今回のリイシューでは当然レアトラックが多く収録されていまして、中でも初出となるのが7曲あるBBCセッションです。
うち3曲はオリジナル・ラインアップによる貴重なもの。ですが、やはりドラムはB.J.ウィルソンに比べると見劣りがしますな。
そして、そのウィルソンとロビン・トロワーが加入してからの演奏ですが、ファーストアルバムでは録音の平板さもあってか、ややおとなしめに感じられていたのが、ぐっと生き生きとした表情のものになっています。"Kaleidoscope" なんて実に格好いいですよ。音質も上々なり。



「Shine On Brightly」でも8曲のBBCセッションが初出なのですが、それより目を引くのがアルバムのモノラル・ミックスで、これも初CD化ということであります。
そもそも彼らのファーストアルバムに純正のステレオ・ミックスが存在しないのは、プロデューサーのデニー・コーデルがフィル・スペクター信奉者でステレオに興味がなかったからだそう。「Shine On Brightly」ではメンバーの強い要望によってステレオ・ミックスが実現しましたが、コーデル自身はやりたくなかった、と。
実際にモノラルの「Shine On Brightly」を聴いてみると、そんな劇的には違わないものの、ちょっとこじんまりとした印象ですね。サイケデリックな意匠が伝わりにくくて。やはりこのアルバムはステレオで正解だった、ということでしょう。

いちばん手前、ディスク3のケースのデザインはロシア盤を模したものらしい

2015-07-21

アガサ・クリスティー「死者のあやまち」


1956年発表になる長編。クリスティ作品は発表年代順に読んでいるんだけれど、ここのところ低調なのね。しっかり練られたとは思えない、雑なのが多くなっている気がするのだ。じゃあ、本作はどうかというと。

「でも、明日、犯人探しの余興の殺人のかわりに、ほんものの殺人があったとしても、あたしは驚かないわ!」
エルキュール・ポアロは探偵作家のオリヴァ夫人から呼び出され、デヴォンシャーにある屋敷に向かった。彼女は依頼を受けて当地で行われる推理劇の筋をつくったのだが、人々からの口出しによってそれは影響をこうむっているのだという。何かがよくない、自分が操られている、という印象を口にするオリヴァ夫人であったが・・・・・・。


劇中に本物の事件が起こるという、黄金期以来のいかにもミステリらしい設定が扱われています。
ポアロは推理の取っ掛かりらしきものは掴むものの、それらが何を意味するのかが判らない。ひとつの事実を起点に謎が解けていくわけではなく、いくつかの手掛かりが集まってくることで、それらが当てはまる全体図が見えてくるもののよう。

正直、推理そのものは飛躍があるというか、手掛かりが少なすぎると思うのですが。その分、いきなり叩きつけられる真相はなかなか衝撃的。犯人を見抜いていた読者さえ騙してしまえという、このあこぎさがクリスティの味ですな。浮かび上がる伏線も非常に印象的なものであります。
また、被害者即犯人という古典的なトリックも、状況がはっきりするタイミングをずらすことでわかりにくいものにする創意がみられます。

相変わらず犯罪計画には無理が目立ちますし、必要があまり感じられないキャラクターも登場するのですが、それでも持ち直した作品だとは思います。ええ、面白かったですよ。

2015-07-19

ブライアン・オールディス「寄港地のない船」


1958年発表になるオールディスの第一長編、その初訳だそう。

世代間宇宙船ものということなんですが。おそらくかつては高度であったに違いない文明が衰退、宇宙船の中は荒廃が進み、いたるところ植物が鬱蒼としています。人々は狩猟を中心にした素朴な生活を送っていて、彼らにとって宇宙船自体が世界のすべてであり、そもそも自分たちがいるのが船の中であることすら半ば忘れ去られているよう。
若い狩人、コンプレインも原始的な言い伝えに従って生きてきました。だが、トラブルに巻き込まれたことを契機に、自らの部族を離れて危険な旅に出ることになる。


長編デビュー作とはいえ、実在感ある世界の描写と活力あるキャラクターは、すでに大したものですな。
特に、第一部では環境のあり方があたかも心象に対応して変化しているような表現が見られます。ここら辺りは後のニューウェーヴSFにもつながっていそうだ。
そして、他の種族との邂逅などを重ねながら、冒険の旅はいつしか、自分たちの住む世界の根源的な秘密へと迫るものになっていく。同時にコンプレインの自己発見としての物語としてもよくできています。

最後まで放り出されたままの要素は見受けられるけれど、それさえもひとつところには収まらないような世界のありかたを示しているようだ。
また、現在からすればその仕掛けには予想のつく部分がありますが、それでも勢いにまかせて乗り切ってしまえるような力強さを感じました。
やっぱり古典ですね。いいですわ。

2015-07-18

パソコンでブルーレイディスクを再生してみた

先に載せたストーンズのマーキーについての文章、あれを書いていてスクリーンショットを挿入したいなと思いまして。パソコンの対応ドライブにブルーレイディスクを入れたのだが、これが再生できない。
AACSがどうこう、というエラーメッセージ。調べてみるとコピープロテクトらしい。有償の視聴ソフトを買えばいいのだそうだが、とりあえずキャプチャーをしたいだけなので、そこまではちょっと。
というわけで方法がないか、ちょっと考えてみた。


The Rolling Stones / The Marquee Club: Live In 1971


今更なので、簡単に。
僕が買ったのはブルーレイ版+CDに、「The Brussels Affair」2CDがバンドルされたやつ。最初に入手したものはブルーレイの映像に縞が走る不具合があったのだけれど、無償交換で綺麗な画で見ることができるようになりました。

古くからブートで出回っていた映像ですが、さすがにオフィシャルなものは比べ物になりませんな。内容としてはスタジオライヴ的な雰囲気であって、ライヴにしてはラフなところが少なく、まとまりが意識される演奏だと思います。
改めていいな、と思ったのは "I Got The Blues"。スタジオ・ヴァージョンだとエコー処理のせいか、英国ロックらしさが残っているように思えるけれど、ここではまんま'60年代スタックス。ストーンズのソウル・ミュージックに対する愛情がむき出しで出ているようで、うれしくなります。
あと、"Bitch" ではギターリフをミック・テイラーが弾き、リードをキースが取っていますな。「Sticky FIngers」のブックレットを読むと、最初はぱっとしない曲だったのが、遅れてやって来たキースがテンポを上げてギターを弾くと凄く良くなった、というアンディ・ジョンズの証言がありますが。実際、レコードではどうだったのだろう。



同梱の「The Brussels Affair」は1973年のライヴ。「Goats Head Soup」からの "Dancing With Mr. D." や、"Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)" あたりが聴きものですね。ミック・テイラーのギターは自由自在に浮遊するようで、滑らかさからは管楽器的なニュアンスさえ感じます。
この時期はビリー・プレストンもいるせいか、とんでもない勢いがあります。ただ、ときにそれが行き過ぎて、テンポ早目の曲ではひっかかりがないようなところも。個人的には、もっとグルーヴのある演奏が好みなんだよなあ。

2015-07-12

法月綸太郎「怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関」


怪盗グリフィンの2作目ですが、9年も経っているので前作の内容は覚えてないのです。気楽な冒険活劇だったと思うんだけど。
今作の装丁画には猫がたくさん。どことなく不思議の国のアリスっぽいイメージだなあ、と思っていたら作品の方もちょっと関係がありました。

『ノックス・マシン』がミステリのモチーフを使ったSF短編集だったのに対して、こちらはそれを裏返しにしたような様相です。
特にごりごりのSF談義が続く序盤、作者によるフィリップ・K・ディックへの愛情が爆発していて、これは楽しい。しかし、普段ミステリしか読まないひとにはどうかしら、トゥー・マッチなんじゃないかと心配しますけど。
陰謀らしきものもちらちら垣間見せつつ、前半は主にグリフィンの(ニック・ヴェルヴェットばりの)怪盗ぶりが楽しめます。

第二部に入ると、物語は謀略ものとしての色を濃くしていきます。動きそのものは乏しく、とんでもな理論やそれに基づく秘密の研究についてのディスカッションが繰り返されて。このあたり、まるっきりのミステリの作法ですね。背景はともかく、実際のところはSFらしい特別な事件はなにひとつ起こらないまま進んでいきますが。

終盤に入り、SFとしての本性を現したと思ったら、さらにそこを飛び越えていく展開が待っています。ここはカート・ヴォネガットみたいな味もありますね。
また、落としどころは古典的といえなくもないけれど、書き振りがスマートなんだなあ。

ジャンルにこだわるひとには向いていないかもしれませんが、この作者らしさを充分に感じさせつつ、物語の楽しさに溢れた作品でした。BGMは勿論、ザ・フーの "Won't Get Fooled Again" で。

2015-07-11

Ronny And The Daytonas / The Complete Recordings


ロニー&ザ・デイトナズの2CDコンプリート盤、米Real Gone Musicからのリイシューです。別名義でのものや未発表4曲を含めて48曲、全てがモノラル・ミックスで収録されております。ヴィク・アネシーニが手掛けたマスタリングのほうは音圧控えめで、自然な鳴りを意識したもののよう。

しかし、初期のホッドロッド曲はつまらないですな。デビュー・ヒットの "G.T.O." ではリーダーの(というか実質ソロ・プロジェクトですが)バック・ウィルキンがまだ高校生だったのだけど、今聞くとそんなに面白くない、勢いに欠けるロックンロールといった印象。アコースティック・ギターがリードを取るのが個性といえばそうですけれど。また、この "G.T.O." のヒットを受けて制作されたアルバムの曲も、サウンドこそ迫力のあるものに改善されていますが、基本的にはジャン&ディーンのフォロワーといったつくりで特長があまり感じられない。
やはり、ぐっと良くなるのが "Sandy" からです。この曲はウィルキンが2トラックのレコーダーを使って一人で録音したものを元に、スタジオで後から音をかぶせて制作されたものだそうで、ひときわ内省的なサウンドはそのせいでしょうか。また、この曲のシングルB面がインスト・ヴァージョンですが、別アレンジながらスロウのサーフ・インストとして中々の出来。ただ、残念ながらマスターテープが無いようで、これは盤起こしの収録です。

ところで、バック・ウィルキン自身によるライナーノーツを読むと、アルバム「Sandy」までプロデューサーを務めていたビル・ジャスティスという人物、彼はウィルキンの母親のビジネス・パートナーでもあったそうなのですが、そのジャスティスが横領をしていたことが発覚した、と。それで縁を切らざるを得なくなったわけだが、ジャスティスはマネージャーでもあったため、ウィルキンは自分ひとりで仕事を切り回していかなければならなくなった、とのことです。結局、以後は大したヒット・レコードは出せなかったのだが。

まあそれはともかく。彼らは1966年よりレコード会社をそれまでのMalaから大手のRCAに移し、そこで5枚のシングルをリリースしています。時代を反映したように洗練されすっきりとしたサウンドになっていますが、丁寧に作られ、ポップでどれもそこそこはいい曲でありますね。

2015-07-06

クリスチアナ・ブランド「薔薇の輪」


1977年にメアリー・アン・アッシュ名義で出された長編。『ゆがんだ光輪』からは20年ほど後の作品になりますね。この頃、すでにクリスティは亡くなっていたし、謎解き小説の時代はとっくに過ぎていたか。

こんなお話。
成功した女優エステラの娘には障害があった。シカゴのギャングであり、今は投獄されている夫・アルから妊娠中に暴行を受けたせいだ。その夫が病気による特赦により出所、一目娘に合おうとやってくる。戦々恐々とするエステラたちと、古臭いギャングのスタイルを英国でも通し続けるアル。
で、悲喜劇的なおかしみを感じさせる文章に乗って快調に読み進めていくと、やがて殺人が起こる。そこで登場するのは事件の地、ウェールズに住むチャッキー警部。こちらは『猫とねずみ』以来、なんと27年ぶりになります。

ミステリとしては関係者たちが口裏を合わせて何かを隠している、というもの。
この作品が発表されたときブランドはすでに70歳くらいだったはず。しかし、ごく限られた材料を使ってこれでもか、というくらい錯綜した状況を創り出す手際は健在であります。また、チャッキー警部が相当な切れ者ぶりを発揮してみせる、推理のスクラップ&ビルドの過程も充分に面白い。

正直なところをいうとフーダニットとしては弱い上、そもそもいちばん根本的なところがパズラーとして組み立てられてはいないように思う。また、往時の作品のように、解決とともに恐怖が立ち昇ってくることもない。
しかし、腐っても鯛。細やかな伏線は張り巡らされているし、それらの中にはミステリ的な意味での伏線とは違う、物語における象徴的なものとして配置されているものもあって。こういうのを見ると、やっぱり書き手として凄いな、と思います。

というわけで一見さん向けではありませんが、ブランドという作家に魅せられたひとなら、時代によって変わったもの・変わらなかったものひっくるめて失望はしないのではないかしら。

2015-07-05

The Rolling Stones / Sticky Fingers


長考および逡巡のあげく入手したスーパーデラックス版、ようやく開封。
本体は120ページほどあるハードカバー本。写真は勿論、アルバム制作過程を追った文章は読み応え十分。イアン・スチュワートが "Wild Horses" でプレイすることを拒否した下りなど、なんやそれ、と思いました。


奮発してスーパーでデラックスなやつを買ったのは当然、リーズ大学でのライヴ「Get Yer Leeds Lungs Out」がこれにしか入っていないからで。'71年3月13日に行われたこのライヴはBBCで放送され、それを元にしたブートレグもありましたが、モノラルでしかも頭2曲が欠けていました。今回は全曲をステレオミックスで聴くことが出来る、というわけであります。
ミックテイラーがいいですね。アタックはないのに太い音。この時期はまだ "Jumping Jack Flash" のアレンジを崩さずに演っているのも嬉しい。逆に "Satisfaction" はファンキーな演奏になっていて、これは格好いいな。


順序は逆になりますが。CD2であるボーナス・ディスク、5曲ある別テイクはもちろん正規ヴァージョンよりはラフなんだけど、エッジの効いた音の感触はむしろこちらのほうが好みであります。クラプトン入り "Brown Sugar" は猥雑なエネルギーに満ちた演奏であって格好いい。"Wild Horses" も感傷的な甘さが控えめな感じがして良いです。また、"Bitch" はエクステンディッド・ヴァージョンとあるけれど、これも別テイクですね。曲後半、どこへ向かうかわからない展開がスリリング。
ディスク後半には、リーズの次の日にロンドンはラウンドハウスで行われた昼夜2回のショウから5曲が収録されています。これもいいんですよ。すごく気合が入っていて、流しているような部分がないタイトな出来。なんとかフルセットで出してもらいたいものだ。



僕が「Sticky Fingers」というアルバムで一番好きな曲は "Sway" だ。'70年代はじめの時点で英国のバンドが、これだけ骨太で雄大、かつ叙情性がしっかりと結びついた表現を獲得したことは凄いと思う。また、こういった曲でもストリングスが入っているのが、英国らしさでもあるか。

はずれ。