2017-01-15

アガサ・クリスティー「フランクフルトへの乗客」


1970年発表のノンシリーズ長編。
クリスティ自身による長めの前書きがついていて、大雑把に要約するとキャラクターは純然たる架空のものだが物語の背景は現実の反映だ、ということなのだけれど。これは作品を楽しむ上で逆効果になっているのでは。何といわれようが登場人物の主張イコール作者の思想、と取ってしまう読者は少なからずいる(評論家にも安易に結びつける人は多い)。実のところ、あまりに荒唐無稽な作品であることを自覚したクリスティがあらかじめ予防線を張っているに過ぎないと思うのだ。

作品のほうは、結論からいうとB級パルプスリラーといったところ。
はじめのうちは謀略小説のように展開します。クリスティのそれまでのスリラーと比べても乱暴というか、どんどん広げた風呂敷が大きくなっていく。これ、校正したのかな? と感じるような辻褄の合わない描写もあります。また、キャラクターが薄っぺらなのは戯画的な面を強調するためだとは思うのだけれど、ユーモア味があまりないのが痛い。かろうじて葉巻好きの大佐の描写に見られるくらいか。
後半になると、物語はまったく予想もつかない方向へ豪快にシフトしていきます。

まあ、〈コミック・オペラ〉という副題が付いている作品なのです。シリアスに受け取って読むものではありません、これは。舞台化されたものをイメージすれば、相当に強引な展開にも納得がいくのでは(病弱な博士がぐんぐん元気になるところなど、本来は笑い所でしょう)。
ミステリとしては大したことはないですが、エラリー・クイーンのファンなら主人公のおばによる操り、という仕掛けは(いささかあからさま過ぎますが)見逃せないか。

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