2017-02-19

The Move / Magnetic Waves Of Sound - The Best Of The Move


英EsotericからリリースされたCD+DVDの2枚組セット。

CDの方はベスト盤であって、ムーヴのコンピレーションは今までに数多く出ているけれど、今回のものはレーベル縦断した内容というのがミソ。最近のリイシューを全部フォローしてきた自分にとっては、Harvest移籍後の曲のリマスターのみが新たなもの、ということになるか。
選曲としてはシングルA面全てにいくつかのB面曲やアルバム・トラックとなっています。並びは年代順であり、前半モノラルで後半がステレオ・ミックス。
ひとつ引っかかったのは "Cherry Blossom Clinic" ではなく再演版の "Cherry Blossom Clinic Revisited" が入ったことか。オリジナルの "Cherry~" はシングル・リリースが予定されながらトラブルがあってキャンセルされた、という経緯があるので、こちらの方が収録されるのにふさわしいと思う。一方で "~Revisited" を入れないとセカンド・アルバムからの曲が "Hello Susie" のみになって、バランスが悪くなるというのもわかるのだけれど。
しかし、こうやって時系列の並びで聴いていても、サウンドが重くなっていた時期の曲はいまひとつ好みではないですね。


ディスク2はDVD。今回のセットを購入したひとの多くはこれが目当てでは。現存する全ての映像が網羅されているわけではないし、画質も凄くいいというほどではありませんが、オフィシャルな形での商品化は初めてになるものも入っています。
個人的には初期のライヴ映像がいいですね。特にエース・ケフォードの存在感がバリバリで、メンバーでは一番格好いい。あと、べヴ・ベヴァンのドラムには意外なほど安定感がありますな。
また、収録されているうちで一番尺を取っているのは、定番といっていいBBCの番組「Colour Me Pop」の映像です。レコードに合わせた完全なリップシンクもあれば、(たぶん)生演奏もあり、あるいは演奏だけ先に録って、それに当てぶりしながらボーカルはライヴで、というものも。選曲においてはヒット・シングルにとどまらず、一年後にならないと発表されないセカンド・アルバム「Shazam」からのものや、バーズのカバーなどかなり自由にやっています。
全体としてもグループに関わった全てのメンバー、エース・ケフォードからジェフ・リンまでの映像が入っているのはいいですな。

2017-02-18

アガサ・クリスティー「復讐の女神」


1971年発表、ジェーン・マープルものの長編。

『カリブ海の秘密』で事件の解決に力を貸してくれた富豪、ラフィール氏が死亡。それから一週間ほど経って、マープルのもとにラフィールの弁護士から連絡が来る。ラフィールにはマープルにやってもらいたいことがあり、それには相応の謝礼も支払うという指示を残していたのだ。どうやら何らかの犯罪捜査を望まれてはいるようなのだが、具体的なことが全くわからない。マープルは故人の関係者をそれとなく当たってみるのだが、成果は得られなかった。
数日後、マープルはラフィールが生前に書いた手紙を受け取り、それに従って〈大英国の著名邸宅と庭園〉めぐりのバスツアーに参加する身となった。道中において、ラフィールによって手配された協力者が何人か現れる。彼らもしかし、はっきりとしたことは話さないし、わかってはいないようだ。それでも少しずつヒントが出されることで、マープルに期待されるのがどういった事件の解決なのかが見えてくる。

物語前半は曖昧模糊とした状況が徐々に形を明らかにしていくのが面白いのですが、何かロールプレイングゲームのような感じです。
巻き込まれ方のミステリとして仕立てなかったためか、他の作品と比してマープルが能動的によく動くこと。マープルに設定を押し付けるラフィール氏は作中に降りてきた作者の代弁者という趣があります。

ミステリとしての出来はキャリア末期のクリスティにしてはそこそこ。意外性の配慮はされているものの、読者にとっては少しずつ先読みが出来るかな。
一方、プロット面では新たに起こる事件の扱いに雑さを感じました。マープルより早く真相に肉薄している人物がいるのだが、果たしてそれがどのようにして可能だったのかは不明なまま。また、犯人はなぜそのことに気付けたのか。さらに、マープルの身を守るために配された人物は、いかにして危険を察知しえたのであろうか。

マープルものとしては最後に書かれた作品であるためか、マープルは全編出ずっぱり。初期作品の登場人物であるサー・ヘンリーの名前が出てくるところなどもファン・サーヴィスでありましょうか。
ただ、訳文はあまりよくない。文のつながりに妙なところがあるし、キャラクターが途中で別人のような話し方に変わってしまう箇所も見られますね。
まあ、ファン向けの一作ではないかと。

2017-02-12

Bobby Hebb / Sunny


ボビー・ヘブのこのデビュー作は1966年、米国内ではマーキュリー・レコード傘下であったフィリップスからリリースされました。
プロデュースはジェリー・ロス、アレンジはジョー・レンゼッティ。ロスにとってマーキュリーでの初めての仕事がボビー・ヘブだったそう。

大ヒットした "Sunny" はボビー・ヘブの自作曲。溜めを効かせたボーカルが印象的で、はじめのうちは抑制を感じさせながら、それが後半になるにつれてどんどん感情が高まるように力強いものになっていく。控えめな管や鉄琴も雰囲気がいい。バック・ボーカルはアシュフォード&シンプソンやメルバ・ムーアが務めているようだ。
この曲はカバーもおそろしく多いけれど、オリジナルでの隙間の多いプロダクションは、聴き手にとってイメージを膨らませる余白があるのだな。

その "Sunny" は置いておいて、アルバム全体としてみるとソウル色が強いですね。そこにジャジーなものやスタンダードな曲が加わるという具合。ボビー・ヘブのボーカルも軽いものから男臭いシャウトまで難なくこなしていますが、スマートな "Sunny" のイメージで聴くと面食らうかもしれない。

ポップソングとしてならロスとレンゼッティが書いたアップ、"Love Love Love" が抜群の出来です。モータウンあたりを下敷きにしながらぐっと都会的なテイストを漂わせた仕上がりが格好良く、鍵盤のリフもとても印象的。ジェイ&ザ・テクニクスの曲だといわれても違和感がない(実際、ジェリー・ロスによればテクニクスのデビュー・ヒット "Apples, Peach, Pumpkin Pie" は当初、ボビー・ヘブにあてがおうとしたが拒否された曲なのだそう)。

2017-02-05

カーター・ディクスン「かくして殺人へ」


ときは戦時中、初めてものしたロマンス小説『欲望』が評判になったモニカ・スタントンは、映画化の話を受けてロンドンのスタジオに向かう。しかし、彼女に任されたのは自作ではなく、探偵小説『かくして殺人へ』を脚本にする仕事であった。そして、『欲望』のほうは『かくして~』の作者、ビル・カートライトが脚本化することとなった。
撮影スタジオを見学中、モニカは何者かによる硫酸を使ったトリックの犠牲になるところを、ビルのおかげで間一髪、防ぐことができた。だが、そのトリックはそもそもビルが考案したものだったのだ。そして、さらなる脅威が迫り・・・・・・。


1940年発表になる、ヘンリ・メリヴェール卿もの。
ヒロイン、モニカをビルが守ろうとするというお話で、不可能興味や怪奇的な味付け、おどろおどろしい演出はありませんが、その分テンポがよく、ロマンティック・コメディとサスペンスのバランスも取れていて、非常に読みやすい。
そもそも何故モニカが狙われるのか、その理由が一向にわからない。ビルは探偵作家として、自らの推理を組み立てるのですが、物語の中盤になってようやく登場するH・Mによって、それは否定されてしまいます。

真相のほうは意外な動機というか、隠された構図が見所です。クリスティ的な面白さ、といったらよいか。ただし、かなり無理のある犯行手段、あこぎな誤導などが気になってしまうかな。

戦時下であることがプロットと有機的に結びついているし、ユーモラスな落ちも決まった。
メインの趣向はやや小粒なのですが、色々と副次的なアイディアが盛られ、楽しいミステリになっています。