2018-03-19

ロス・マクドナルド「象牙色の嘲笑〔新訳版〕」


1952年の長編、新訳版で再読。二年前に買ってはいたのだが、ずっと放置していました。
はたちくらいのころに一番入れ込んでいた作家がマクドナルドとフィリップ・K・ディックなのだけれどね。歳を取ってからは辛気臭いものはあまり読みたくなくなってしまったのだ。

この『象牙色の嘲笑』はリュー・アーチャーものとしては4番目の長編で、シリーズとしては初期のものとなります。アーチャーがまだまだ若く、感情をはっきり示していて、後の観察者でも紙のように薄い存在でもありません。立場の弱いものには肩入れし、警官に対して反抗的な口をきいたり、自分につかみかかってきた若者を軽くあしらってみせたりします。あと、ちょっとモテたりもする。
筋立てのほうは胡散臭い依頼者からの人探しがやがて殺人事件に結びついて、というもので、捜査が進むにつれて事件の規模が広がり複雑さを増していく。

後ろ暗いものを抱えた人々によるそれぞれの思惑が絡み合った事件。それが、ある瞬間にひとりの人物の行為に収束していく真相はミステリとして素晴らしくかたちがいい。また、一度捨てた可能性が再び浮かび上がってくる仕掛けと、それを成立させるためのキャラクター造りがとてもうまい。

チャンドラーの影響はまだ明らかであって、マクドナルドならではの個性はそれほど感じられないものの、複雑なプロット構成のうまさは既に完成の域にあると思いましたよ。

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