2010-10-26

麻耶雄嵩「隻眼の少女」


作者五年ぶりくらいの長編新刊、本書は二部構成よりなる。第一部は1995年、信州の寒村を舞台に横溝風の見立てを含んだ連続殺人が起こる。探偵役は隻眼で時代錯誤な水干姿の少女、御陵みかげ17歳という、まあ、なんと言ったらいいのか、アレだよなあ、というキャラクター設定。でも文体はシリアス、という。
紆余曲折の挙句に犯人は判明したのだが、第二部、18年後の2003年になって同じ場所で同じ手口の犯行が。

ひたすら展開されまくる推理は非常に精緻であり、好みなのだが、偽の手掛かりを絡めた多重どんでん返しはどうしても印象が薄くなってしまいがち。
これまで長編では読者のアタマをカチ割るような大トリックを披露してきた麻耶雄嵩ではあるけど、ここ最近の短編で見られるように、この作品はミステリとしてはオーソドックスだよな。年齢を重ねて芸風も変わってきたのか。
でもいいか、謎解きの手筋は美しいし、密度も高い。

などと思いながら読み進めていくと、終盤、ナニコレ!? となりました。
フェアでロジカルでありながら、突然あさっての方向から出現する真相。関係者置いてけぼり。更に、ミステリとしての構造そのものが実はとてもハードルが高く、挑戦的であることが判明するという。(*)
いやはや、これも麻耶雄嵩でしか書けないだろう。素晴らしい。
期待にたがわぬ作品でありました。

(*)「探偵の操り」テーマの場合、犯人の用意した手掛かりとそうでないものの峻別が決定不能であり、それは結局は犯人本人でしか判らないのだけれど、本作の場合、間違った犯人による自白までが(複数)盛り込まれており、これで読者を納得させる真相までもってくるのは困難だと思っていたのです。個人的にも「操り」ものには食傷気味であったし。ところが実際は全てが、犯人による意識的な偽の手掛かりであったのですね。この作品はこのテーマを究極まで推し進めたものではないかと

0 件のコメント:

コメントを投稿